水島港長期構想検討委員会にて―水島コンビナートの未来を考える

水島港の将来像を検討する「水島港長期構想検討委員会」が、2月20日、国土交通省や岡山県のリードにより開催されました。私も産業振興と地方創生の観点から委員を拝命し、出席させていただきました。

瀬戸内海に面した水島コンビナートは、戦後の高度経済成長期に形成された日本有数の臨海工業地帯です。製鉄、石油化学、自動車、機械、化学、エネルギー、食料関連産業などが集積し、日本の基幹産業を支えてきました。現在でも岡山県の製造品出荷額の約半分を生み出す、県経済の中核的拠点となっています。

この地域の特徴は、原材料の輸入から製造、そして製品の輸送までを港湾と一体的に行う「港湾型産業構造」にあります。水島港を基盤として形成されたこの産業集積は、瀬戸内海沿岸を代表する臨海コンビナートとして、日本の産業発展を長く支えてきました。

しかし、その歩みは必ずしも順風満帆であったわけではありません。高度経済成長期には大気汚染などの公害問題を経験し、地域社会は大きな課題に直面しました。

水島地域の公害対策の特徴は、企業、行政、そして地域住民が協働しながら環境改善に取り組んできた点にあります。行政による規制や環境監視体制の整備、企業による環境設備投資や技術改善、そして住民の声を反映した地域の合意形成の積み重ねによって、水島は環境改善を進めてきました。

こうした取り組みは、日本の公害対策史の中でも重要な経験であり、産業発展と環境保全をどのように両立させるかという課題に対する一つのモデルともいえます。

この経験は、単なる過去の出来事として語られるものではありません。むしろ、持続可能な社会を考えるうえで重要な学びの資源となるものです。水島の産業の歴史は、経済成長の象徴であると同時に、環境との共生を模索してきた地域の歩みでもあるからです。

その意味で、環境学習の視点を積極的に取り入れた地域づくりも重要ではないかと考えています。私自身も、地域の大学、行政、企業、市民団体などが連携して設立した「水島滞在型環境学習コンソーシアム」の取り組みに関わってきました。

このコンソーシアムは、水島地域が経験してきた産業発展と公害克服の歴史、そして現在進められている環境対策の取り組みを、地域に滞在しながら学ぶ現地型の環境学習プログラムとして構想されたものです。企業の環境対策施設や港湾施設、環境関連施設などを訪れながら、産業と環境の関係を実地に学ぶことを目的としています。

こうした取り組みは、国際的に推進されているESD(持続可能な開発のための教育)の理念とも深く関わっています。ESDは、環境、経済、社会の三つの側面を統合的に捉え、持続可能な社会の担い手を育てる教育として世界的に進められているものです。

さらに、こうした考え方は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)とも深く結びついています。SDGsは、2030年を目標年とする国際社会共通の目標であり、「誰一人取り残さない社会」の実現を理念として、環境、経済、社会の調和のとれた発展を目指すものです。

水島地域の産業と環境の歴史は、まさにSDGsの理念を具体的に考えることのできる現場でもあります。産業の発展、環境保全、地域社会の持続性という課題を同時に考えるこの地域の経験は、SDGsの目標の中でも、とりわけ「産業と技術革新の基盤をつくろう」「住み続けられるまちづくりを」「気候変動に具体的な対策を」といった目標と深く関わっています。

大学教育の観点から見ても、このような地域をフィールドとした学習は重要な意味を持ちます。教室での講義だけでは理解しにくい産業活動の現場や環境対策の実態を、現地での観察や関係者との対話を通じて学ぶことによって、学生は社会の課題をより立体的に理解することができます。

フィールドワークとしての環境学習は、単なる知識の習得にとどまらず、地域社会の課題に向き合う視点を養う機会にもなります。産業、環境、地域社会の関係を総合的に理解するこうした教育は、これからの持続可能な社会を担う人材育成において、ますます重要になるでしょう。

一方で、世界は今、大きな転換期にあります。脱炭素社会の実現に向けて、産業構造そのものの変革が求められています。臨海工業地帯も例外ではなく、エネルギー利用、製造プロセス、物流システムのすべてにおいて新しい発想が必要になっています。

今回の委員会でも、20年、30年先を見据えながら、水島港と水島コンビナートの将来像について議論を重ねました。カーボンニュートラルを志向した製造技術の導入、次世代エネルギーの活用、環境に配慮した港湾物流の高度化など、産業と環境を両立させる地域モデルを構想していくことが重要になることを委員一同が確認いたしました。

ここで重要になるのは、水島がこれまで経験してきた歴史です。公害を経験し、その克服の過程で環境対策の知恵と制度を築いてきた地域だからこそ、これからの脱炭素社会に向けた新しい産業モデル構想を力強く推進することができるのではないでしょうか。

すなわち、水島港の未来を考えることは、単なる港湾整備の問題ではありません。それは、これからの地域産業の姿をどのように描き、持続可能な社会を地域からどのように築いていくのかを考える営みでもあります。いままさに、水島コンビナートは、戦後日本の成長を支えた産業拠点から、次の時代の持続可能な産業モデルへと歩みを進めようとしています。かつて公害を経験したこの地だからこそ、環境と産業が調和する未来を世界に示すことができるのではないか、その未来に向けた可能性を、水島は、私たちに静かに問いかけているのです。

次回の委員会では、これまで地域市民やコンビナート企業の皆様が共に取り組んできた実績を話題提供できればと考えています。

トップに戻る