人を大切にする経営と花束への御礼

9月18日、人を大切にする経営学会中国支部第10回公開フォーラムが、岡山大学創立五十周年記念館で開催されました。

午前中の那須保友岡山大学長の特別講演「地域と地球の“ありたい未来の共創”と不易流行の実践経営」から、夜の懇親会まで。久しぶりに岡山大学で、懐かしい皆さまと語らい、学び、楽しい一日を過ごさせて頂きました。

この学会が目指しているのは、「五方良し」の経営です。近江商人の心得として知られる「売り手良し、買い手良し、世間良し」の三方良し。その精神を受け止めながら、経営に関わる人々の顔が、より具体的に見えるようにとの思いで学会活動を進めてきました。

社員とその家族、外注先・仕入先、顧客、地域社会、そして株主。この五者の幸せを大切にする経営です。とりわけ、日々会社を支える社員とその家族、取引先で働く方々の暮らしに、しっかりと目を向けることが出発点になりました。

会社は誰のためにあるのか。経営の成果は、誰の幸せにつながっているのか。

坂本光司先生が問い続けてこられたこの課題を、研究者、経営者、士業の専門家、行政や産業支援に関わる方々が、ともに学び、実践するのが、この学会です。全国大会や地域支部の活動、出版、そして「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞などを通して、その輪を広げてきました。

私は2014年の学会設立当初から関わり、中国支部の活動をお手伝いして参りました。企業の皆さまの実践から教わり、それを大学での教育や地域活動に持ち帰る。私自身が、この学会に育てて頂いた一人です。

今回のフォーラムでは、那須学長に続き、坂本先生が「人財の慢性的不足時代における選ばれる企業になるためには」と題して講演されました。午後には、平林金属の平林実社長、鷹取醤油の鷹取宏尚社長のご講演、さらに岡山の企業の皆さまによるリレートークが続きました。大学と地域の企業が一緒になって、人を大切にする経営を考える一日です。

さて、この日は、思いがけない出番がありました。

坂本先生の基調講演の最中、突然、ステージへ上がるようにお声がかかったのです。

心の準備もないまま登壇することになりましたが、せっかく頂いた機会です。私の考える「人を大切にする経営」、その原点である大原社会問題研究所での学び、そして『人を大切にする経営学用語事典』の編纂について、お話をさせて頂きました。

私の研究者としての源流には、法政大学で学んだ時代があります。自叙伝『行雲流水』にも記しましたが、恩師の原薫先生は大原社会問題研究所のご出身で、その恩師が、長く研究所長を務められた久留間鮫造先生でした。私は久留間先生からも、研究所の理想や活動の歴史について、直接お話を伺う機会に恵まれました。そこで鍛えて頂いたのが、社会正義を考える心です。社会で起きている出来事を、表面だけで理解したつもりにならない。その背景にある経済の仕組みや歴史、人々の暮らしを丁寧に学び、問題を生み出す構造を見つめ、解決の道筋を探る。学問をする者として、より良い社会の実現に役立つ仕事をしなさい。その教えは、今も私のなかにあります。

研究所を創設した大原孫三郎翁は、企業経営に取り組むとともに、社会問題の研究、医療、福祉、農業研究、芸術など、幅広い分野に力を注がれました。働く人や地域の人々の暮らしを見つめ、必要なことを自ら事業として形にしてゆく。その思想と行動に、私は長く学ばせて頂いています。企業が社会のなかで果たす役割を考え、人間の尊厳を大切にする。こうした学びが私のなかにあったからこそ、坂本先生との出会いが深いご縁となり、「人を大切にする経営」に共鳴してきたのだと思います。そして、そのご縁が、事典の編纂へとつながりました。

『人を大切にする経営学用語事典』は、2025年に共同文化社から刊行されました。2年以上の歳月をかけ、総勢135名が携わり、1,000の経営用語を「人を大切にする」という視点から捉え直した一冊です。私も監修を担当し、岡山大学の大学院授業などを通して、県内の企業や自治体、医療福祉機関の皆さまと学んだ成果を織り込みました。

私は大学人になる前、編集者として『金融実務辞典』や『業種別審査事典』など、大型の辞典・事典の編纂に関わった経験があります。その経験から、編纂委員長である坂本先生の下で、実務を支える副編纂委員長を務めさせて頂きました。

とは申せ、事典づくりは、やはり大仕事です。

経営者、実務家、士業専門家、研究者、医療や福祉に携わる方々。それぞれの現場で培われた実践知を、読者に伝わる経営の言葉としてまとめてゆく。経験の豊かさを生かしながら、一冊の事典として用語を整理し、共通して使える説明に整えることが、編纂の大きな課題でした。執筆者、査読者、主査、編纂委員会、出版社の皆さま、そして編纂実務を中心となって支えてくださった6名のスタッフ。その献身的な仕事があって、ようやく上梓に至りました。私も、これまでの経験を総動員してお手伝いさせて頂きました。

2024年10月には、大阪の天彦産業の本社をお借りし、翌日は堺市産業振興センターへ会場を移して、仕上げの作業を進めました。全国から集まった皆さまがお土産を持ち寄り、お菓子を頂きながらの編纂作業。頭を使い、言葉を考え、また手を動かす時間でした。

作業を終えて梅田へ移動し、生ビールの泡に描かれたアートに感心したことも、懐かしく思い出します。苦労をともにした仲間との、こうしたひと息がありがたいのです。

この事典は、日々の経営や仕事に迷ったときに開き、自分の判断を見つめ直すために使って頂きたい本です。そんな座右の一冊になれば、編纂に携わった者として、これほど嬉しいことはありません。

そして、この考え方は、私が岡山大学で大切にしてきた学生たちの地域活動や実践型教育にも通じています。学生と一緒に地域へ出向き、住民の皆さまのお話を伺う。企業で働く方々の工夫に学ぶ。地域の行事や課題に関わり、自分たちにできることを考え、実際に動いてみる。そうした経験を重ねて参りました。

相手の立場を知り、その方が大切にしているものを理解する。自分の考えを伝えるとともに、相手の声に耳を傾ける。その積み重ねのなかで、人を大切にすることの意味が、学生自身の経験になってゆきます。共に考え、共に働き、共に楽しむ。相手の力に気づき、自分の見方を問い直す。こうした学びを、私は学生たちにも伝えたいと考えてきました。

大原社会問題研究所で学んだ社会正義の心。大原孫三郎翁の思想と行動。坂本先生との出会いと学会での実践。事典の編纂。そして、岡山大学で学生や地域の皆さまと重ねた時間。振り返れば、私のなかでは、一つにつながっています。

夜の懇親会では、これまで中国支部をお手伝いしてきたことに対して、大きな花束を頂きました。赤いバラをはじめ、彩り豊かな花々を抱えますと、少し照れくさく、そして胸が温かくなりました。支えてきたつもりで、実は私の方が、多くの皆さまに支えて頂いていたのだと思います。中国支部をともに育ててくださった方々、会場や運営を支えてくださった岡山大学の皆さま、実践を惜しみなく伝えてくださった経営者の皆さまに、心から感謝申し上げます。たいしたことなど出来るはずもありませんが、誰かのお役に立ちたいとの思いで動いています。これからも、その気持ちを大切にして参ります。

三方良しから五方良しへ。

頂いた花束に、これまでのご縁と、これからへの励ましを感じた、ありがたい一日でした。企画や登壇者との調整、参加の呼びかけ、当日の受付・進行、懇親会まで、準備を重ねてくださった皆様に、心より深く御礼申し上げます。

 



■関連リンク

学会公式・五者を大切にする経営(https://www.htk-gakkai.org/a0013/MyHp/Pub/)

第10回公開フォーラム公式案内(https://www.htk-gakkai.org/a0008/Oshirase/Pub/Shosai.aspx?AUNo=204&OsNo=6&Pg=1&St=0)

出版時のブログ(https://mimura.cafe-nous.com/blog/30577)

編纂と出版記念会の記録(https://mimura.cafe-nous.com/blog/30580)

大阪・堺での編纂作業(https://mimura.cafe-nous.com/blog/28997)

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