シルバーウィークには、散歩がてら、久しぶりに池田動物園をひとまわりしました。岡山市の京山にある池田動物園は、昭和28年(1953年)に開園した、長い歴史を持つ動物園です。その出発点は、旧岡山藩主池田家の池田隆政氏が、戦後の食糧難の時代に、子どもたちへ栄養を届けたいと始めた牧場にありました。やがて、子どもたちに生きた動物の姿を見せたいという思いが、動物園へとつながっていきます。昭和天皇の第四皇女・厚子さんと隆政氏の歩みとも重なる、岡山ならではの歴史を刻んできた場所です。
京山の地形を生かした園内には坂道や階段があり、歩いていると、ちょっとした山歩きの気分にもなります。街なかに近い場所で、緑に囲まれながら動物たちに出会えるところが、この動物園の魅力でしょう。子どもの頃に訪れた人が、親になり、祖父母になって、また家族と足を運ぶ。そんな世代を超えた思い出の受け皿としても、大切な場所なのだと思います。
さて、敬老の日にちなんだ入園無料の対象は70歳からでした。67歳の私は、あと三年。まだこちらでは若手ということでしょうか。少し残念なような、うれしいような気分です。猛暑続きの疲れでしょうか、季節の変わり目だからでしょうか。動物さんたちも、どこかバテ気味に見えました。それでも、それぞれのペースで過ごす姿を眺めていると、こちらまで肩の力が抜けてきます。いつも元気いっぱいでなくてもよい。休むときには休み、動くときには動く。そんなことを教わるような、楽しいひとときでした。
岡山駅まで足を延ばすと、今度は一転して、大勢の人でにぎわう風景に出会いました。リニューアルオープンした「さんすて岡山」です。若い人や家族連れで、押すな押すなの大盛況でした。「さんすて岡山」は、駅に直結し、日々の買い物や食事、旅のお土産選びなどを支える商業施設です。
今回の改装は「岡山一番街」と合わせた段階的なリニューアルで、9月18日には両施設で31店舗が一斉にオープンしました。ファッションやカフェ、食品などの店舗がそろい、さんすて岡山南館2階の休憩スペース「さんすてテラス」も新しくなっています。買い物の途中や列車を待つ間に、ひと息つける場所があるのはありがたいですね。駅は、通勤や通学、出張や旅行で、さまざまな人の時間が交差する場所です。その駅に、ちょっと立ち寄りたくなる店や、誰かと過ごしたくなる空間が増えると、街を歩く楽しみも広がります。大勢の人の姿を見ていると、新しい店との出会いを楽しみにしていた気持ちが伝わってくるようでした。このにぎわいが駅の中から周辺の商店街へ、さらに街のあちこちへとつながっていけばよいなと思います。
帰りには、岡山駅西口側で山本豆腐の「極上木綿豆腐」を買い求めました。にぎやかな駅で新しいものに触れたあと、食卓には、昔ながらの確かな味を連れて帰ります。山本豆腐は、昭和14年(1939年)創業の老舗です。清心町に本店を構え、長年にわたり、岡山の家庭や学校給食など、身近な食の場を支えてきました。厳選した大豆を使い、濃度の高い豆乳から、大豆の風味を生かした豆腐を作る。季節や気候に応じて加減を調整し、一丁ずつ丁寧に仕上げる仕事が受け継がれています。私が買い求めた極上木綿も、国産大豆を使った品です。この駅西口の駅元町には、山本豆腐のアンテナショップ「Balloom(バルーム)」があります。豆腐や豆乳、おからを使った料理やスイーツを通じて、豆腐屋さんの味を楽しめるお店です。おからと豆乳のドーナツ、豆乳を使ったスムージーなど、若い世代にも親しみやすい形で、大豆のおいしさを届けています。受け継いできた味を大切にしながら、新しい食べ方や出会い方も提案する。こうした工夫にも、地域のお店が続いていくための知恵を感じます。
買って帰った豆腐は、少し冷やしていただきました。しっかりとした木綿豆腐を、ゆっくり味わう。それだけで、食卓が豊かになります。本物の逸品。この一丁で、大ご馳走です。湯葉や揚げもおいしく、また買いに行く楽しみがあります。身近な場所に、こうして安心して楽しみにできる味がある。散歩の帰りに買い求め、家でいただくというささやかな営みの中にも、その土地で暮らす幸せがあるのだと思います。
さて、私の67歳の誕生日は、友人がサプライズで祝ってくれました。思いがけない心遣いが、胸にしみました。誕生日を覚えていてくれる人がいて、一緒に喜んでくれる。そのこと自体が、何よりの贈り物です。この歳になりますと、元気で活動できているだけで、ありがたいと感じます。自分の足で歩き、花に気づき、生き物を眺め、おいしいものをいただき、友人と笑い合える。そうした一つひとつは、当たり前のようでいて、決して当たり前ではありません。命があり、今日という日を過ごせていることに、感謝の気持ちが湧いてきます。
散歩道に咲く花も、水路の小さな生き物も、動物園で過ごす時間も、街のにぎわいも、一丁の豆腐も。それぞれが、毎日の暮らしに小さな喜びを添えてくれます。もう少しだけ、前に進みたいと思います。自分の歩幅で、道端の花を見落とさないくらいの速さで。
共に歩んでくださる皆さまに、そして、ささやかな幸せを感じられる日々に、感謝です。
■関連リンク
