インフラマネジメントの基本問題を考える

東京から岡山へ戻る車窓に望む富士山は、わが国の象徴であると同時に、地球の歴史から紐解くと激甚災害を繰り返してきた潜在的リスクの象徴です。

NHKスペシャル「富士山大噴火」が放映されました。この富士山の噴火による激甚災害を想定した番組では、専門的な裏付けと物語仕立てにより、とてもリアリティにとんでおり、深い学びを得ました。この番組が提示した災害シナリオは、単なる仮定ではなく、「政策対応を迫る現実」として映りました。本番組を契機として、防災意識の高まりが喚起されたと感じました。実際に、都内に暮らす大学生、高校生になった孫達からは、従来の防災備蓄に加え、「火山灰(煤塵)対策用に防護マスクを注文したよ」との連絡がありました。

一方で、こうした個人対応には限界があり、政策レベルでの体系的な対応が不可欠です。とりわけ喫緊の課題は、災害時に機能を維持すべき基幹施設のレジリエンス強化です。例えば、医療機関の非常電源設備については、依然として旧式設備が多く、長時間停電や複合災害への対応力に課題を残しています。この分野においては、技術的な解決策はクリアできつつあり、岡山大学では、最新の仕組みに精通した専門家の先生がおられ、私も現役時代には導入に向けたお手伝いをしていました。つまり、問題の本質は、導入に対する意思決定の遅れ、財源配分、優先順位の設定など人的な課題にあると考えます。

さらに視野を広げますと、日本社会が直面する構造的課題として、人口減少下におけるインフラ老朽化の進行が挙げられます。道路、橋梁、トンネル、鉄道、上下水道といった社会基盤は、高度経済成長期に集中的に整備されたものが多く、現在その更新期を迎えています。しかしながら、維持管理を担う人材・財源はともに縮小傾向にあります。

この現実を踏まえますと、従来の「維持・更新」中心の発想から脱却し、新たなインフラマネジメントの再設計が求められていると思料します。

 

■政策提言の要点

① 選択と集中によるインフラの最適化

すべてを維持することは現実的ではなく、地域特性や人口動態を踏まえた機能再編、統廃合、ダウンサイジングを前提とした戦略的判断が必要です。

② 災害対応力を軸とした優先順位付け

平時の効率性ではなく、災害時における機能維持を評価軸としたインフラ投資への転換が求められます。能登半島地震での高い盛土に整備された高規格道路の崩落では、その復旧・復興に予想を超える時間とコストが必要になりました。また、病院や避難所指定の施設における非常電源の分野は最優先領域として位置づけるべきです。

③ 技術導入と人材育成の一体的推進

DX(デジタルトランスフォーメーション)や遠隔監視技術の活用は必要ですが、インフラの維持管理分野での自治体職員の専門性強化が不可欠です。

④ 官民連携による持続可能な運営モデルの構築

PFI・PPPの高度化に加え、地域企業や住民を含めた「共創型インフラマネジメント」への転換が求められます。

⑤ 政策形成における“現場知”の体系化

自治体の実践知を横断的に集約し、国レベルで共有・展開するナレッジ基盤の構築が必要です。

 

また、時を同じくして、4月23日、GRIPSインフラ マネジメント研究会 キックオフシンポジウムが、政策研究大学院大学にて開催されました。冒頭、同大学大田弘子学長(元経済財政政策担当大臣)と国土交通省の廣瀬昌由技監の主催・来賓挨拶に続き、JR東日本の池田裕彦副社長など多くの業界関係トップが挨拶に立たれました。基調講演は、同大学の家田仁教授(同研究会会長)でした。パネルディスカッションもコンパクトシティで有名な富山市の人財育成事例など興味深い内容でした。

私事ながら、出版社「薫風社」発行人として、第二作目となる『インフラマネジメントの基本問題を考える ー 人口減少下のインフラ老朽化にどう向き合うか?』を刊行いたしました。国立大学法人 政策研究大学院大学 インフラマネジメント研究会編著です(残念ながら今回は限定出版であり一般販売いたしません)。本書は、実務と政策を接続する基礎資料として位置づけられるもので、この日、本書がご参加の皆さんに配布されました。発行人として感激、思い出に刻む大切な一日となりました。余談ながら、次回5月の研究会では、岡山県内の自治体事例を中心に、僭越ながら報告者(講師)を担当させて頂きます。

 

時代は、災害リスクの顕在化と人口減少の進行という二つの制約条件のもとで、我が国のインフラ政策は大きな転換点を迎えています。今後、全国約1700の自治体では、インフラマネジメントの議論が加速化、各地域に適合した実装モデルを構築する実装段階と言えましょう。岡山県でも、私が理事を拝命している、公益財団法人岡山県市町村振興協会では、2025年度(令和7年度)調査研究事業のテーマを「新しい時代の公共施設マネジメントを考える研究会」として研究会が実施され、その報告書が出来上がったところです。岡山県内においても、現場に根ざした事例を基に、具体的かつ実効性のある提言を発信、そのための人財育成を進めていく必要があると考えます。

「何を守るか」を選ぶのではなく、「いかに守り切るか」を設計する時代になったと確信します。

 

さて、少し話題を変えて。

小麦価格の高騰により、ラーメン一杯が1000円を超える時代となりましたが、六本木の「孫」でいただいた担々麺(1200円)は、その一杯にふさわしい価値を感じさせるものでした。「大盛でなくてよろしいですか?」そう微笑みながら声をかけてくださる、その丁寧な接客もまた、この一杯の味わいの一部でありました。乃木坂の国立新美術館(森英恵展開催中)のすぐ近く、小ぢんまりとした良店です。

 

愛する日本一の山、霊峰富士に、自然が持つ力の大きさを重ねますと、畏怖の念とでも言いましょうか、複雑な思いを抱きながら、日頃の防災対応の大切さや、災害に強いインフラ整備の重要性を考えつつ、一方で、セカンドライフは、ゆっくりと一杯の担々麺を頂きながら平時のありがたさに心をほどく毎日です。

こうしたセカンドライフの自由な時間を利用して、次の世代に手渡すべきものの輪郭を、少しずつ確かめ、実践して参りたいと思います。

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