~備前市日生港から赤穂市坂越港、そして赤穂城へ~
友人に誘われ、6月8日は、備前市日生港から、北前船が寄港した次の港、赤穂市坂越(さこし)港まで、のんびりとドライブを楽しみました。
瀬戸内海は穏やかな海という印象がありますが、江戸時代から明治時代にかけては、日本海と瀬戸内海、そして大阪を結ぶ海上交通の大動脈でした。北海道から日本海沿岸を南下した北前船は、下関を経て瀬戸内海へ入り、各地の港へ寄港しながら大阪へ向かいました。
その航路は単に物資を運ぶだけではありません。昆布やニシン、酒、木綿、塩、米、陶器など、多彩な特産品とともに、人々の文化や技術、情報まで運び、日本の地域経済を大きく発展させた「海のシルクロード」とも呼ぶべき存在でした。
瀬戸内沿岸には、牛窓、下津井、鞆の浦、尾道など数多くの港町がありますが、岡山県東部では日生港、そして兵庫県の坂越港も重要な寄港地として栄えました。
日生港は海の幸に恵まれた港町
備前市日生は、古くから天然の良港として知られています。
現在では全国有数の牡蠣の産地として名高く、「日生カキオコ」は冬の風物詩として全国から多くの観光客を集めています。また、大小十四の島々が点在する日生諸島は瀬戸内海国立公園の美しい景観を形成し、漁業と観光が調和した港町として親しまれています。
しかし、その歴史を振り返ると、日生は単なる漁港ではありません。北前船をはじめとする多くの船が立ち寄り、人や物資が行き交う交流の拠点でもありました。備前焼の特産品を全国へ運び出した拠点としても、海とともに暮らし、海によって発展してきた町であることを改めて感じます。
坂越港は北前船が育んだ歴史の港町
日生港からほど近い赤穂市坂越港は、瀬戸内海でも屈指の歴史を誇る港町です。
湾の奥深くに位置する天然の良港で、古くから風待ち・潮待ちの港として利用され、多くの北前船が寄港しました。
港の周辺には、白壁の町家や海運業で栄えた商家が今も数多く残り、江戸時代そのままの町並みを歩いているような気持ちになります。
坂越最大の魅力は、「歴史が生活の中に今も息づいていること」です。
町を歩けば、静かな路地、古い格子戸、石畳、寺社、港の風景が自然に調和し、派手な観光地とは異なる落ち着いた時間が流れています。
近年では古民家を活用したカフェやレストランも増え、瀬戸内海を眺めながらゆっくりと過ごせる港町として人気が高まっています。
また、港の沖合には国の天然記念物でもある生島(いきしま)樹林があり、古来より信仰の対象となってきました。坂越の港は、海運だけでなく、自然と信仰が共存する特別な場所でもあります。
この日は、赤穂市の市民なら誰でも知っている有名店「かもめ屋」で、大きな海老と柔らかいビーフのランチを頂きながら楽しい談笑の時を過ごしました。
赤穂藩と四十七士の物語
坂越からほど近い赤穂城跡にも立ち寄りました。
赤穂藩といえば、やはり元禄赤穂事件。
浅野内匠頭長矩が江戸城松の廊下で刃傷に及び切腹。その後、大石内蔵助を中心とする四十七士が主君の無念を晴らした忠臣蔵の物語は、三百年以上を経た今日でも日本人の心に深く刻まれています。
赤穂城は、名君・浅野長直によって築かれた海辺の平城で、日本でも珍しい輪郭式海岸平城として知られています。現在は本丸庭園や石垣などが美しく整備され、市民や観光客の憩いの場となっています。
城跡に建つ喫茶で四十七士を偲ぶオブジェを眺めながらくつろいでいますと、「響くはまさしく山鹿流儀の陣太鼓」、そんな言葉が自然と頭に浮かびました。浪士のなかには三村次郎左衛門が居て、役職は、酒奉行台所役として、禄高は七石二人扶持として、最も低い身分であったとされています。開城をめぐる藩士総登城の場には、身分の差別で出られなかったが、大石内蔵助に神文を差しだし「忠義を貫きたい」と申し出て四十七士に加えられた、と伝えられています。辞世の句は「雪霜の 数に入りけり 君がため」です。討ち入りの夜を思い描きながら歩く赤穂城は、単なる史跡ではなく、日本人の義と忠義の精神を静かに語りかけてくれる場所のように感じました。
こうした赤穂藩の発展を支えた産業は「塩」です。
遠浅の海岸を利用した入浜式塩田は全国屈指の規模を誇り、「赤穂の塩」は江戸時代を代表する特産品となりました。この塩づくりによって藩財政は支えられ、赤穂は経済的にも豊かな城下町として発展しました。現在でも「赤穂の塩」は全国に知られるブランドであり、塩をテーマにした商品や料理、お菓子も数多くあり、城跡を歩いた後は、赤穂らしいお菓子として、いただいたのは「塩味最中」です。
上品な餡に赤穂の塩がほどよく効き、甘さの中にほのかな塩味が広がります。
まさに赤穂の歴史を味わうような銘菓でした。
そのほかにも、赤穂には塩まんじゅうや塩ようかん、塩サブレなど、塩のまちならではのお土産が数多く並んでいました。
海がつないだ人と文化
日生港から坂越港までは、車ならわずかな距離です。
しかし、その短い距離には、北前船が運んだ交易の歴史、人々の暮らし、港町文化、そして赤穂藩四十七士の物語という、日本の歴史がぎゅっと詰まっていました。
瀬戸内海を眺めながら港町を巡る旅は、華やかな観光地を訪れる旅とは少し違います。
静かな海を見つめ、歴史に耳を傾け、地元の銘菓を味わう。
そんな「心が豊かになる旅」が、ここにはあります。
岡山県東部から兵庫県西部にかけて続くこの北前船の道は、まだまだ多くの魅力が眠っています。
次はぜひ、坂越の古い町並みをゆっくり歩き、港に吹く潮風を感じながら、北前船が行き交った時代に思いを馳せてみたいと思います。きっと、新しい瀬戸内の魅力に出会えると思います。
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