タマシマ リバイバルプロジェクト

「建物を残して文化を残す」玉島から始まる新たな地域経営

倉敷市玉島で継続して開催されてきた「玉島イノベーションミーティング(TIM)」。この活動を母体として、若い世代の経営者や地域関係者が中心となり、新たな地域づくりへ発展したのが「タマシマリバイバルプロジェクト」です。

2021年10月19日、玉島と企業の未来を考える会、『第一期Tamashima Innovation Meeting(タマシマ イノベーション ミーティング)』がスタートして以来、玉島の旧市街地を中心として、さらに新倉敷駅周辺、そして倉敷市や高梁川流域へ地方創生の輪を広げるべく活動を継続、お手伝いを担当して参りました。そして、2026年6月26日、その取組の一環として開催された、株式会社玉島活版所の原 絢子代表取締役や株式会社西建設(玉島JC・一般財団法人PVリボーン協会)の西泰行代表ら若手経営者が中心となり、玉島商工会議所主催・倉敷市まちづくり基金事業による「NIPPONIAから学ぶ 玉島のまちづくり 地域活性化セミナー」が開催されました。実にはや5年目を迎える活動であり、スタート時からのベテラン代表のひとりとして参加させていただきました。今回のテーマは、「壊すのではなく、吹き込む。建物を残して文化を残す、その道とは」。人口減少社会を迎えた日本において、これからの地域づくりの本質を見事に表現した、大変印象深い言葉でした。

さて、今回の会合は、私にとって一つの時代の節目を感じる、大変意義深い時間となりました。これまで玉島商工会議所が中心となり、多くの地域の皆様と積み重ねてきた活動が、いよいよ本格的に若い世代を中心とした新しいステージへ歩み始めたからです。長年、地域経済の発展に尽力されてきた玉島商工会議所の守永一彦会頭が、次世代へ静かにバトンを託される姿には、地域づくりに最も大切な「継承」の美しさを感じました。チラシにも「地域の何気ない日常や景色こそが地域の魅力であり、若者たちが自らの想いでまちをデザインする活動を応援したい」という熱い思いが綴られており、若い世代が語り描いたその言葉に玉島への深い愛情を感じました。

地域は、人が育て、人が受け継ぎ、人が未来へつないでいくものです。私は近年、「人を大切にする地域経営」という考え方を提唱してまいりました。人口減少が進む時代だからこそ、建物や制度だけではなく、地域に暮らす人々、挑戦する若者、地域を支える企業、行政、大学、市民、専門家など、多様な主体が互いを尊重しながら地域を育てていくことが重要になります。今回の地域活性化セミナーは、まさにその姿を未来に向けて発信する場であり、玉島イノベーションミーティングが育んできた理念を、新たな世代がタマシマリバイバルプロジェクトとして、新たな地域経営へと発展した瞬間であったと確信しました。

 

北前船が育んだ港町・玉島

私のブログでは何度も紹介させて頂いてきましたが、玉島は江戸時代の干拓によって形成された町であり、高梁川の水運と瀬戸内海航路を結ぶ交通の要衝として発展してきました。特に北前船の寄港地として全国の港町と結ばれ、北海道から日本海沿岸、瀬戸内海、そして上方文化まで、多様な人・物・文化・情報が集積した商都の顔を持っています。

つまり、北前船は単なる物流ネットワークではなく、今日で言えば、全国をつなぐ「地方創生ネットワーク」の先駆けともいえる存在と言えましょう。各地の文化や知恵、人材が交流することで、新しい産業や文化が生まれ、日本の地域拠点の発展を支えてきました。その精神は、現代の地域イノベーションにも確かに受け継がれています。そして、玉島には、日本を代表する禅僧・良寛が約二十年間修行を積んだ円通寺があります。師・国仙和尚のもとで厳しい修行を重ねた良寛は、この地で人格の礎を築きました。権力や名誉ではなく、人への慈しみや自然との共生を大切にした良寛の生き方は、「人を大切にする地域経営」が目指す理念とも重なります。

すなわち、歴史や文化は展示物では無く、地域に暮らす人々の価値観や誇りを育んできた「生きた資産」なのです。その資産が玉島には数多く残っています。

 

NIPPONIAが示す地域再生の可能性

今回の講演では、株式会社NOTE代表取締役・一般社団法人ノオト代表理事の藤原岳史氏から、兵庫県丹波篠山市をはじめ全国で展開されるNIPPONIAの取組について、大変示唆に富むお話を伺いました。ちなみに、私が地域再生アドバイザーをつとめる、ふるさと財団においても藤原氏は、地方創生研修、人財育成の講師を担当されています。

NIPPONIAは、「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」という理念のもと、古民家や町家などの歴史的建築物を宿泊施設や交流拠点として再生し、地域全体の価値を高める地域再生事業です。既に、全国三十を超える地域で展開され、単なる古民家保存ではなく、持続可能な地域経済の仕組みづくりを目指していることが特徴と言えましょう。中国五県でも同活動の展開が進められている中で、岡山県では、この玉島に着目頂いています。拠点となる丹波篠山では、歴史的町並みを守りながら、地域住民、事業者、金融機関、行政が連携し、空き家を新たな交流拠点へと再生することで、観光振興だけでなく、若者の起業や移住、地域経済の循環を生み出し大きな実績をあげています。

さらにNIPPONIAの特徴は、「宿泊施設を整備すること」が目的ではなく、「地域全体の価値を高めること」を目的としている点にあります。宿泊客は町全体を歩き、地域の飲食店で食事を楽しみ、地元商店で買い物をし、歴史や文化、人々との交流を体験します。

つまり、一つの施設ではなく、「地域全体」が観光資源となるのです。岡山県では、玉島に近い矢掛町が、「地域全体」を観光資源とした、イタリア発のアルベルゴ・ディフーゾ(アルベルゴは「宿」、ディフーゾは「分散した」を意味し、日本では「分散型の宿」「地域まるごとホテル」を基本コンセプトとする)をモデルとして観光振興、地域創生を展開中です。長く玉島で行動を共にしている、岡山理科大学の神田將志教授が、矢掛町のアルベルゴ・ディフーゾ研究の一人者であり、また、私の岡山大学時代の同僚である岩淵泰准教授も、長くこの矢掛町の活動を学生や留学生と共に実践的に支えてきた第一人者です。矢掛町は、2026年2月20日(金曜日)、日本計画行政学会が東京科学大学で開催した「日本計画行政学会第21回計画賞」最終審査会において、岩淵泰准教授の研究として優秀賞を受賞しています。この受賞では、歴史ある街並みを活かしながら、住民・行政・商店街が協働して進めてきたまちづくりの取組が高く評価されました。また、矢掛町の実践は、日本各地のモデルとなるグッドプラクティスであると認められました。

まさに今回のテーマである「壊すのではなく、吹き込む。建物を残して文化を残す。」という言葉は、建物だけではなく、その土地に息づく歴史、人々の営み、地域文化そのものに新たな命を吹き込むという地域経営の理念を表しており、こうした流れを玉島でも呼び起こしたいと確信いたしました。

 

公共施設から地域経営へ

私は近年、「公共施設の維持・再生から市民共創による地域経営への発想の転換」という考え方を提唱してきました。人口減少社会では、公共施設を単独で維持・更新することには限界があります。これからは、建物単体ではなく、地域全体を一つの経営資源として捉え直すことが必要です。

玉島には、町家、港湾施設、商店街、円通寺、歴史的景観、高梁川、そして北前船文化があります。これらは単なる文化財ではありません。地域の未来を支える「インフラ資産」なのです。つまり、道路や橋、古民家や公共施設だけが社会インフラではありません。地域の歴史や文化、人材、景観もまた、次世代へ引き継ぐべき社会資本です。これらを維持・活用し、新しい価値を創造していくことこそが、これからの地域の歴史資産や景観を活かしたインフラマネジメントであると確信します。

こうしたなか、今回のタマシマリバイバルプロジェクトへは、倉敷市宿泊税の検討に携わる市役所の皆様も多数参加されていました。倉敷市では、令和8年3月に「倉敷市観光ビジョン」を策定し、基本理念を「観光を力に、未来へつなぐ」として、来訪者と地域の双方がよりよい影響を与え合い、歴史・文化・産業が調和し、新たな価値を生み出す「響き合う文化観光都市 くらしき」を目指しています。少子高齢化等の社会状況の変化のなかであっても、こうした、訪れてみたい、暮らしてみたいまちを目指す、持続可能な地域づくりの実現に向けた取組を行うためには、多くの便益が及ぶ来訪者の方々に一翼を担っていただくことも重要であす。宿泊税は、新たな税収を得ることを主目的にしている訳ではありません。地域の魅力を磨き、市民と観光客の双方が恩恵を受ける「未来への投資」であるべきであるとの思いで、お手伝いを続けて参りました。その答申を伊東香織市長に提出、現在、2026年7月3日から同月末日までが、パブリックコメントの受付となっています。

例えば、

  • 歴史的町並みの保全と活用
  • 町家再生への支援
  • 歴史文化ガイドの育成
  • 高梁川や港を活かした水辺空間整備
  • 回遊性を高める歩行環境の改善
  • 文化財や景観の維持管理

こうした取組は、観光客だけでなく、市民の暮らしの質も高めます。そして玉島地区では、休館になっている「良寛荘」の再生が、未来の玉島への超えねばならぬ一里塚となります。「人を大切にする観光」は、「人を大切にする地域経営」そのものなのです。

 

産官学民士が未来を創る

今回のタマシマリバイバルプロジェクトには、商工会議所、NPO、企業、大学、市民、行政、市議会議員、そして専門家が集まりました。私は、この「産官学民士」の連携こそが、これからの地方創生の鍵になると確信しています。行政だけでも、企業だけでも地域は変えられません。それぞれが強みを持ち寄り、地域という一つのチームとして未来を創る。その姿こそ、玉島イノベーションミーティングからタマシマリバイバルプロジェクトへと受け継がれてきた精神であると痛感しました。そのなかで、私たちベテラン世代は、これまで培ってきた経験やネットワークを次世代へつなぐ役割を担い、若い世代が思い切って挑戦できる環境を整えていきたいと思います。

さて、盛会を祝って開かれた会費制の懇親会では、高梁川の稚鮎と瀬戸内海で水揚げされた見事な海老や魚貝を囲みながら、地域の未来について語り合いました。土地の恵みを味わい、人と人との絆を深める時間は、玉島ならではの豊かさを改めて実感するひとときでした。北前船が運んできた交流の精神、良寛が育んだ慈愛の心、そして地域を支えてきた人々の営み。それらを未来へ受け継ぐことが、私たちに課せられた使命です。玉島には、その可能性があります。歴史を守るだけではなく、歴史を未来へ活かす。公共施設を管理するだけではなく、「地域全体を経営する」。そして何より、人を大切にする地域経営を実践する。その挑戦は、玉島から倉敷へ、岡山へ、そして全国へ広がっていくことを心から期待しています。

 

森を見て木を見る

最後に改めて感じたことがあります。

地域づくりとは、目の前の事業を成功させることだけではありません。歴史や文化、人と人とのつながりを大切にしながら、次の世代へ地域の価値を引き継いでいく営みです。

私は、地域経営を考える際、いつも「森を見て木を見る」という言葉を大切にしています。一つひとつの建物や事業、イベントという「木」を丁寧に育てることはもちろん重要です。しかし、その木が育つ「森」、すなわち地域全体の歴史や文化、産業、教育、福祉、観光、暮らしまでを俯瞰しながら将来像を描くことが、これからの地域経営には欠かせません。

玉島には、北前船が育んだ港町の歴史があり、良寛が修行した円通寺があり、町家や商店街、高梁川や港湾施設など、先人たちが築き上げてきた豊かな地域資産があります。

これらは単なる文化財ではありません。私は、それらを「歴史資産」であると同時に「未来資産」であると考えています。つまり、歴史を保存するだけでは未来は拓けません。歴史を未来へ活かし、新しい価値を生み出してこそ、地域は持続的に発展していきます。今回学んだNIPPONIAの実践は、そのことを私たちに力強く示してくれました。

そして、私たちが常に忘れてはならないのが、「将来世代への責任」です。公共施設の更新も、歴史的建造物の保存も、宿泊税の活用も、地域の産業振興や観光まちづくりも、その目的は今を生きる私たちだけのためではありません。未来を担う子どもたちや若者が、この地域に誇りを持ち、「このまちで暮らしたい」「このまちで挑戦したい」と思える環境を築くことこそ、私たち世代の責任です。そのためには、行政だけでも、企業だけでも、大学だけでも実現できません。産官学民士が力を合わせ、それぞれの知恵と経験を持ち寄り、人を育て、挑戦を支え、世代を超えて志を受け継いでいくことが必要です。

 

地域経営とは人づくりである。

人が育てば、地域は育ちます。

人が地域を愛すれば、歴史や文化は受け継がれます。

人が挑戦すれば、新しい産業や交流が生まれます。

そして、人と人とのつながりが、新たな地域の価値を創造していきます。

玉島イノベーションミーティングから始まり、タマシマリバイバルプロジェクトへと受け継がれた歩みは、まさにその「人づくり」の歴史であり、今回、若い世代へ本格的にバトンが渡されたことは、次代の新たなスタートを意味します。

私たちベテラン世代は一歩後ろからその挑戦を支え、ともに学び、ともに歩みながら、玉島の未来を応援していきたいと思います。

森を見て木を見る。

歴史資産を未来資産へ。

将来世代への責任を果たす。

地域経営とは人づくりである。

この四つの思いを胸に、玉島から始まる新たな地域創生の歩みが、倉敷、岡山、そして全国へと広がっていくことを心から願っています。

トップに戻る