お盆休みも終わり、ジイジも活動再開です。
政策研究大学院大学で開催された勉強会に参加しました。
この日、8月18日は火曜日で新国立美術館が休館日です。いつもは乃木坂駅からここを抜けていくのですが、門が締まっていたため、日本学術会議の前から回り込むように大学へ向かいました。かつて、この日本学術会議でも研究報告させて頂いたことがあります。通るたびに懐かしく感じます。
さて、今回の講師は、早稲田大学理工学術院・創造理工学部社会環境工学科の秋山充良教授です。秋山先生は、東北大学工学部土木工学科、同大学院を修了され、建設コンサルタントの日本工営で橋梁技術者として勤務された後、東北大学の助手、助教授、准教授を経て、2011年から早稲田大学教授を務めておられます。米国のリーハイ大学で客員研究員、台湾科技大学やミラノ工科大学で客員教授を務めるなど、国際的にも活躍されています。
ご専門は、構造工学、地震工学、コンクリート工学、インフラの維持管理です。とりわけ、橋梁などの構造物が地震、津波、塩害、経年劣化、気候変動といった複数の危険にさらされた場合、どの程度の安全性を保てるのか、限られた財源の中で、いつ、どこへ投資すべきかを、信頼性、リスク、レジリエンスの観点から研究されています。つまり、壊れてから直すだけではなく、インフラの一生を見通して、事故や災害を未然に防ぎ、被害が生じても速やかに社会機能を回復させる仕組みを考える専門家です。国土交通省の道路技術小委員会、日本道路協会の各種委員会、土木学会の構造工学委員会や地震工学委員会などでも重要な役割を担い、学術研究と実際の政策・現場を結び付けてこられました。土木学会が実施する「インフラ健康診断」にも深く関わり、自治体、とりわけ財政力や技術職員の少ない市町村が抱える維持管理上の課題にも向き合っておられます。
今回のテーマは、ずばり「インフラは誰が守るのか」。道路、橋梁、トンネル、河川、上下水道など、私たちの暮らしを支えるインフラの老朽化が進む中、それを守る責任と専門能力を、国、自治体、民間企業、大学、学会がどのように分担すべきか。日米の制度や人材配置の違いを踏まえ、熱い議論が交わされました。特に印象的だったのは、組織内部に高度な専門知識を持つ「インハウススペシャリスト」の存在です。
米国では、行政機関やインフラ関係組織の中に、長年の経験と専門性を持つ技術者が配置され、相応の権限と待遇を得ながら、政策決定や技術判断を支えています。組織を移っても専門家としての経歴が評価され、官、民、大学を行き来しながら能力を高めていく仕組みがあります。
一方、日本では、行政組織の人事異動によって技術や経験の蓄積が途切れたり、専門職よりも総合職的な管理能力が重視されたりする場合があります。自治体によっては土木技術職員そのものが不足し、点検結果を読み解き、補修の優先順位を判断できる人材の確保が難しくなっています。
民間へ委託すれば、すべて解決するわけでもありません。発注する行政側に技術を理解し、成果を評価する能力がなければ、適切な契約や品質管理はできません。行政の中にも、技術的判断を担う専門家を育て、継続的に配置する必要があります。
また、土木学会をはじめとする学術団体についても、研究成果を発表するだけでなく、社会に対してインフラの現状を分かりやすく伝え、政策提言や人材育成に一層踏み込むべきではないかという議論がありました。
「官」は責任と長期的な政策を担い、「産」は技術と実行力を発揮し、「学」は科学的根拠を示して政策と現場をつなぐ。この産官学の関係を、形式的な連携ではなく、それぞれが責任を負う実働体制へ変えていくことが重要です。ただし、米国の仕組みをそのまま理想像として捉えることにも疑問が示されました。米国には、インフラを本気で支える行政官、技術者、研究者、専門家集団が存在します。その一方で、現在のトランプ政権が掲げる収益性や短期的成果を強く重視する政策運営と、長期的な安全性、公共性、レジリエンスを重視するインフラ政策との間には、大きな乖離があるのではないか。短期的に「儲かるか、儲からないか」だけで判断すれば、地方部の道路や橋、上下水道、防災施設などは投資対象から外れかねません。しかし、インフラは市場で利益を生むためだけの資産ではなく、国民の生命と暮らし、産業、国土を守る社会基盤です。
専門家集団が積み重ねてきた科学的知見と、時の政権が掲げる政策との整合性をどのように確保するのか。政治的判断と専門的判断の距離をどう保つのか。これは米国だけでなく、日本にも共通する重要な問いです。インフラは、誰か一人が守るものではありません。行政、企業、大学、学会、そして地域住民が、それぞれの役割と責任を自覚し、専門家を尊重して、その知見を政策に生かすことが必要です。そして、インフラを守る人材に、仕事の責任に見合う権限、待遇、社会的評価を与えなければなりません。
秋山先生の専門的な解説と参加者の皆さんとの率直な意見交換を通じて、「老朽化した施設をどう直すか」だけでなく、「誰が、どのような責任と能力を持って、将来にわたりインフラを守るのか」という本質的な課題を考える、大変有意義な勉強会となりました。
お盆明け早々、頭の中まで一気に活動再開です。
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