小平市「平櫛田中彫刻美術館」訪問

岡山県井原市が生んだ、日本近代彫刻界の巨匠、平櫛田中(ひらぐし・でんちゅう)先生。

5月17日、その終の棲家となった東京都小平市の「平櫛田中彫刻美術館」を訪問させていただきました。

美術館は、玉川上水沿いの静かな住宅地の中にあります。玉川上水といえば、江戸時代に江戸の暮らしを支えた歴史ある水路ですが、現在は美しい緑の並木道として市民に親しまれています。木漏れ日の中を歩いておりますと、都内にいることを忘れるほど落ち着いた風景が続き、武蔵野の面影が今も色濃く残っております。

その緑に包まれるように建つのが、平櫛田中彫刻美術館です。

広い庭を備えた落ち着いた佇まいのお屋敷で、ここで田中先生が晩年を過ごされたのかと思いますと、自然と背筋が伸びる思いがいたしました。

派手さはありません。しかし、長い年月をかけて積み重ねられた芸術家の時間が、静かに空間に染み込んでいるようでした。

田中先生は、明治から昭和にかけて活躍された日本を代表する彫刻家で、「鏡獅子」をはじめ、多くの名作を残されました。特に、人間の表情や気迫、生命力を木彫で表現する力は圧倒的で、「木に魂を吹き込む」とまで言われた存在です。

また、90歳を超えても創作意欲は衰えず、「六十、七十は鼻たれ小僧、男ざかりは百から百から」という有名な言葉を残されたことでも知られています。まさに、生涯現役を貫かれた芸術家でした。

私が長く地方創生のお手伝いを続けてきた、岡山県井原市にも、「平櫛田中美術館」があります。こちらは、生誕地ならではの親しみや郷土色が感じられ、地域の誇りとして田中先生を大切に顕彰している新築されたばかりの近代的な美術館です。

一方、小平市の美術館は、“芸術家・平櫛田中の暮らしと人生”に触れられる空間という印象を受けました。制作現場の空気感や、日々の暮らし、創作への執念のようなものが、庭や建物から静かに伝わってくるのです。

同じ平櫛田中を伝える施設でありながら、井原は「ふるさとの誇り」、小平は「人生の集大成」という趣があり、両方を訪ねることで、田中先生の歩まれた長い人生が立体的に見えてくるように思いました。

それにしても、100歳を超えてなお創作を続けた田中先生の生き方には、ただただ圧倒されます。

最近は、「老後」という言葉ばかりが先に立つ時代ですが、本来、人は歳を重ねるほど深みを増し、なお挑戦を続けることができるのかもしれないと、玉川上水の新緑を眺めながら静かに考えた一日でありました。

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