―旅先の四万十鰻、気軽な豪快盛、職人が焼く特上重、そして京都の名物一本重―
今年、2026年の夏の土用の丑の日は、7月26日でした。
土用とは季節が移り変わる時期のこと。昔から日本では、暑さで体力を失いやすい盛夏に鰻を食べ、英気を養う習慣が受け継がれてきました。
しかし、当日まで待ち切れません。
そこで、かなりのフライングから始まり、この夏は場所も趣も異なる鰻を四度楽しむことになりました。
一度目―南国サービスエリアの四万十鰻重
最初の鰻は7月17日でした。
先のページでも紹介しましたように、岡山シーガルズに帯同して高知県の明徳義塾を訪問した帰り、南国サービスエリア上り線に立ち寄り、「四万十鰻重」をご馳走になりました。
南国サービスエリアは、高知自動車道を利用して高知を訪れる人々にとって、土佐の食文化に触れられる大切な玄関口です。鰹のたたき、土佐あかうし、四万十鶏、須崎名物の鍋焼きラーメンなど、高知ならではの味がそろっています。
その中でも「四万十鰻重」は、サービスエリアの食事という枠を超えた、少し贅沢なご当地メニューです。
使用されている四万十鰻は、「高知家のうまいもの大賞2021」で大賞を受賞したブランド鰻です。清流・四万十川の名を冠する鰻らしく、身は柔らかくふっくらとしており、脂には濃厚な旨味がありながら、後味はくどくありません。
香ばしく焼かれた蒲焼きに甘辛いたれがよくなじみます。明徳義塾での一日を終え、岡山へ戻る道中でいただく四万十鰻重は、単なる食事ではなく、高知訪問の余韻を味わうご馳走でもありました。
旅先で、その土地ならではの鰻に出会う。幸先のよい、今年最初の鰻となりました。
二度目―なか卯のうなぎ豪快盛
二度目は、土用の丑の日を目前にした7月24日です。
この日は「なか卯」岡山市今店へ出かけ、「うなぎ豪快盛」を注文しました。
なか卯の鰻は、じっくり焼いてから丁寧に蒸し上げ、特製のたれをつけて焼く工程を三度繰り返しているそうです。蒸しがよく利いているため、身はふかふか。大盛りのご飯に鰻が三枚のった豪快盛は、その名のとおりボリューム満点です。
目の前に運ばれてきた丼を見るだけでも元気が出ます。気取らず、ガッツリと食べたいときにはぴったりの一杯でした。
専門店の鰻重や鰻丼とは趣が異なりますが、食べたいと思ったときに気軽に味わえ、価格も比較的手頃です。鰻を特別な日のご馳走だけにせず、身近な夏の楽しみにしてくれる、ありがたい存在だと思います。
なお、8月に入ってから、なか卯さんではシーズンメニューである鰻の提供を休止しています。この夏の豪快盛は、まさに時期を逃さず味わうことのできた一杯でした。
三度目―味心 逆瀬川の特上鰻重
三度目は7月31日です。
赤磐市での仕事を終えた後、自分へのささやかなご褒美として、鰻の名店「味心 逆瀬川」さんを訪ねました。
注文したのは、贅沢に特上の鰻重です。
逆瀬川さんの魅力は、産地や育て方にこだわった鰻を選び、注文を受けてから一匹ずつ割き、好みに応じた焼き方で仕上げてくれるところにあります。
愛知県一色産の「艶鰻」をはじめ、希少なブランド鰻「うなぎ坂東太郎」や岡山ゆかりの鰻、時期によっては児島湾産の天然鰻も扱っています。
この日は、愛知県一色産の活きのよい鰻を一匹、地焼きで仕上げてもらいました。
目の前に運ばれてきたお重の蓋を開けると、香ばしい匂いがふわりと立ち上がります。表面はパリッと香ばしく、中はふっくら柔らかい。口に運ぶたびに鰻の脂と旨味が広がり、甘辛い濃厚なたれがご飯に染み込んで、箸が止まりません。
欲を言わせてもらえば、私はもう少し薄味のたれが好みですが、この力強い甘辛さも逆瀬川さんの個性でしょう。
添えられた山椒は、和歌山県産の香り高い「ぶどう山椒」。ひと振りすると、爽やかな香りと心地よいしびれが鰻の脂を引き締め、味わいを一段と豊かにしてくれました。
旅先の鰻や気軽なチェーン店の鰻とはまた違う、職人の技と素材の個性をじっくり味わう一食でした。
四度目―京都駅ビル「四代目菊川」の名物一本重
三度で終わるはずでしたが、8月9日、京都で第四の鰻をいただくことになりました。
今回は超奮発です。
訪れたのは、京都駅ビルにある「うなぎ四代目菊川」さんです。京都大学の所用で岡山から日帰りで参りました。嵯峨嵐山界隈で用事を済ませて、丁度、お昼時でしたので、京都駅の駅ビル11階ながら、落ち着いて鰻を楽しむことにいたしました。注文したのは、看板料理の「名物一本重」。さらに肝焼きとノンアルコールビールもお願いし、ささやかなお祝いの席としました。
運ばれてきた一本重は、鰻を切り分けず、丸ごと一本の姿で豪快にお重へ載せた、実に見事な一品です。蓋を開けた瞬間、堂々と横たわる鰻の姿と香ばしい香りに、思わず顔がほころびました。
驚いたのは、お重の器です。一般的な軽い塗り物ではなく、ずっしりと重い陶器でできています。鰻をご飯ごと箸ですくい上げても器が動かず、最後まで安定して食べられます。料理の豪快さだけでなく、食べやすさまで考えられた、存在感のある器でした。
鰻は表面が香ばしく焼かれ、身にはしっかりとした厚みがあります。箸を入れると、皮目の香ばしさと身の柔らかさが伝わり、鰻そのものの旨味を存分に楽しめました。
山椒も二種類用意されています。それぞれに香りや刺激が異なるため、途中で使い分けながら味の変化を楽しみました。鰻の脂とたれの風味に、山椒の爽やかな香りが加わると、同じ一本重の中でも新しい表情が生まれます。
そして最後に残しておいた尻尾の部分には、お茶をかけて、ひつまぶし風にしていただきました。香ばしく焼かれた鰻とたれの染みたご飯に温かいお茶がなじみ、最後はさらりとした味わいになります。豪快な一本重を、そのまま、二種類の山椒、そしてお茶漬けと、最後まで飽きることなく堪能しました。
しかし、この日、最も驚いたのは肝焼きです。香ばしく焼かれた表面、ほろ苦さの中にある濃厚な旨味、そして絶妙なたれの加減。掛け値なしに、これまで私がいただいた肝焼きの中では最高点でした。長く生きていると、それなりにいろいろな場所で鰻や肝焼きをいただく機会があります。その経験を踏まえても、「これは美味しい」と素直に感動する一皿でした。ノンアルコールビールを傾けながら名物一本重と肝焼きを味わい、こうした幸せな時間が少しでも長く続きますようにと、心の中で静かに念じました。
美味しいものをいただけること。元気に京都まで出かけられること。そして、ささやかなお祝いの時間を過ごせること。その一つひとつが、決して当たり前ではないのだと思います。
四つの鰻、四つの楽しみ
旅の途中で高知らしい食文化を味わった、南国サービスエリアの「四万十鰻重」。
気軽にお腹いっぱい楽しめる、なか卯の「うなぎ豪快盛」。
職人の技と産地の個性をじっくり味わった、味心 逆瀬川さんの「特上鰻重」。
そして、ささやかなお祝いに超奮発し、一本の鰻と絶品の肝焼きを堪能した、京都駅ビル・四代目菊川さんの「名物一本重」。
同じ鰻でも、場所や店、焼き方、たれ、器、そしていただく日の気持ちによって、それぞれに異なる良さがあります。
旅の思い出を深めてくれる一食。日常の中で元気を補ってくれる一杯。仕事を終えた自分をねぎらう特別なお重。そして、これまでの日々に感謝し、これからの健康と幸せを願いながらいただく祝いの一本重。
四つの楽しみ方があるからこそ、鰻の魅力が一層深く感じられました。
7月から8月にかけては、高齢者にとって何かと手続きの多い季節でもあります。加えて、外に出れば猛暑、時には酷暑と呼ぶほかない厳しい暑さです。
水分と休息を十分に取り、熱中症を防ぎながら、無理をせず健康を守らなければなりません。
こうした季節にいただく鰻は、身体への滋養だけでなく、「もうひと頑張りしよう」という気持ちを呼び起こしてくれる、心強い味方です。
この夏、四度にわたって美味しい鰻をいただけたことに感謝しながら、残暑を元気に乗り越えていきたいと思います。
さて、五度目はあるのでしょうか。
身体とお財布の双方と、よく相談することにいたします。
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