小さな夏休み―立川の酒場と国分寺の白河中華そば

仕事を少しばかり頑張りすぎたジイジです。連日の猛暑も重なり、ここらで一息入れなければ身体がもちません。そこで、東京の自宅界隈で妻と共に「プチ夏休み」を楽しむことにいたしました。

7月12日、夕刻に向かったのは、立川駅南口から歩いてすぐ、使い込まれた暖簾が何とも味わい深い「炭火串焼 だるま」さんです。昭和の酒場を思わせる店構えに誘われて暖簾をくぐり、まずは冷たいホッピーで喉を潤します。そして、炭火で香ばしく焼かれた串焼きをいただきます。なかでもレバーは、焼き加減、柔らかな食感、濃厚な旨味のいずれも申し分なく、まさに絶品です。

「だるま」さんは、酒場詩人・吉田類さんの人気番組『吉田類の酒場放浪記』にも登場したお店です。2022年6月27日に放送された第1074回で紹介されたと記されています。

『吉田類の酒場放浪記』は、吉田類さんが各地の大衆酒場を訪ね、店主や常連客と言葉を交わしながら、その土地に息づく酒場文化を伝えるBS-TBSの長寿番組です。高級な料理や華やかな店を追いかけるのではなく、長年まちに根を張ってきた酒場の暖簾をくぐり、酒と肴、そして人情を味わうところに、この番組の魅力があります。

吉田類さんの柔らかな語り口と、初対面の人とも自然に杯を交わす姿を見ていると、酒場は単に酒を飲む場所ではなく、人と人が出会い、互いの人生を少しだけ分かち合う「まちの居間」であることに気づかされます。私もこの番組が好きで、吉田類さんの足跡をたどっているような、少しうれしい気持ちになります。

「だるま」さんは平成6年創業で、土佐清水出身のご主人と息子さんが切り盛りされています。名物の串焼きは牛、豚、鶏がそろい、鮮度を大切にするため、注文を受けてから串に刺して焼き上げるそうです。ご主人自身が酒好きで、焼き鳥屋を開くことが夢だったというエピソードにも、この店の温かな雰囲気がよく表れています。

冷たいホッピーを傾けながらレバーを頬張り、店内の話し声や串の焼ける音に耳を澄ませます。遠出をしなくても、こんな時間があれば立派な夏休みです。ジイジも束の間、仕事や雑事を忘れて、心と身体を休ませることができました。

そして7月14日、久しぶりに国分寺市日吉町にある「白河中華そば 孫市」さんへうかがいました。

白河ラーメンは、福島県白河市を代表するご当地ラーメンで、白河の名店「とら食堂」を源流として、その味と技は全国へ広がったと言われています。その特徴は、幅広い平打ち縮れ麺にあります。つるりとした舌触りと、もちもちした弾力があり、その縮れた麺に澄んだ醤油スープがよく絡みます。「孫市」さんには日本蕎麦のお店でよく見かける手打ちコーナーがありますが、元祖「とら食堂」の流れをくむ孫弟子に当たるお店だそうです。国分寺の地で20年以上にわたって親しまれ、白河ラーメンの伝統を守り続けています。

この日も、手打ちの平たい縮れ麺は、つるつる、もちもちとして、噛むほどにその触感は絶妙です。そこへ、すっきりとした澄んだ醤油スープが絡みます。奇をてらわず、丁寧に積み重ねられた味です。「やはり、これです」と心の中で頷きながら、最後までおいしくいただきました。

猛暑ですから、さすがに今日はお客さんも少ないだろうと、たかをくくって参りました。ところが、お昼前にはすでに行列ができていました。暑さをものともせず、多くの人がこの一杯を求めて並んでいます。妻もびっくりしていました。長く愛される味には、季節も暑さも関係がないようです。

最近、老舗や地域の名店が暖簾を下ろすニュースを耳にするたび、寂しく、つらい気持ちになります。味を守り続けることは、決して当たり前ではありません。しばらく前に発生した新型コロナ災禍、最近では材料費や光熱費の高騰、人手不足、後継者の問題、そして店主の高齢化など、小さなお店を取り巻く環境は年々厳しくなっています。

けれども、酒場もラーメン店も、単に食べ物や飲み物を提供する場所ではありません。そこにはご店主の気概があり、常連客の思い出があり、地域の日常があります。長く使われた暖簾、焼き台から立ち上る煙、カウンター越しの「いらっしゃい」、湯気の向こうに見える職人の姿。それらすべてが、まちの大切な文化であり、記憶なのだと思います。

「だるま」さんでいただいたホッピーと絶品のレバー。「孫市」さんでいただいた手打ち縮れ麺と澄んだ醤油スープ。どちらも、長年の仕事と工夫、そしてお客さんを喜ばせたいという思いが生み出した味でした。

「ごちそうさまでした」とお礼を申し上げるとともに、どうかこれからもお元気で、長く暖簾と絶品の味を守り続けていただきたいと夫婦共々願いました。

遠くへ旅をしなくても、身近なまちの暖簾をくぐれば、心をほどく時間に出会えます。立川の酒場と国分寺の白河中華そば。ジイジのささやかなプチ夏休みは、心にもお腹にも染み渡る、満足のひとときでありました。

 


■関連リンク

BS-TBS『吉田類の酒場放浪記』店舗紹介

新横浜ラーメン博物館「白河ラーメン」解説

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