愛媛・東予の美味いもの

懐かしい田舎の味と、受け継がれる技

故郷・愛媛県東予地方には、派手さはなくても、一口味わえば子どもの頃の記憶がよみがえる、懐かしい食べ物が数多くあります。瀬戸内の海の恵み、石鎚山系から流れ出る加茂川、中山川の清らかな水、そして地域の人々が長年守り続けてきた手仕事。その一つひとつに、東予の風土と暮らしの歴史が刻まれています。

7月30日、実家の前に広がる海で収穫され、加工された瀬戸内海苔の「一番のり」をいただきました。西条市は、西日本最高峰の石鎚山から流れ出る豊かな水と、瀬戸内海の燧灘に面したまちです。山から川を通じて海へ運ばれる栄養が海苔を育み、東予ならではの香り高い海の幸を生み出してきました。「一番のり」は、その年の初めに摘み取られた海苔を使った味付け海苔で、やわらかな口当たりと豊かな風味が魅力です。温かいご飯を包んで食べると、磯の香りがふわりと広がり、何ともいえない懐かしさに包まれます。

しかし近年、海水温の上昇や海の栄養環境の変化などにより、海苔の生育や色、品質への影響が心配されています。海苔は単なる地域の特産品ではありません。山、川、海が一つにつながり、そこに漁業者や加工業者の経験と技が加わって生まれる、地域の自然と暮らしの結晶です。いつまでも美しい川と海が守り継がれ、故郷の海苔を味わえるようにと願いながら、一枚一枚を大切に噛みしめました。

 

東予には、子どもの頃から親しんできたお菓子も目白押しです。

西条市小松町の尾上竹馬堂が作る「蝶庵最中」は、1948年創業以来、最中一筋に歩んできた老舗の味です。北海道産大納言小豆を使った餡と、国産もち米から作る香ばしい皮を合わせ、甘さを抑えながら小豆本来の旨味を引き出しています。小豆を炊き始めてから完成まで数日をかけるという丁寧な仕事から生まれる、ずっしりとした粒餡。その素朴で真っすぐな味わいは、熱いお茶によく合います。大好きでしたが、子供の頃は、超高級品で、めったに口に入らない高嶺の和菓子でした。

「たぬきまんじゅう」も、西条を代表する懐かしい銘菓です。西条に伝わる喜左衛門狸の伝説にちなんで生まれた、一口サイズの焼き菓子です。じっくりと練り上げた粒餡を、口どけのよい桃山生地で包んだ、やさしく上品な味わいです。90年近く愛されてきましたが、店主の高齢化により2018年夏に一度は製造が途絶えました。それでも、「この味を終わらせてはいけない」という人々の思いによって、同年冬に復活しました。まさに、地域の味を次代へつなぐことの尊さを物語るお菓子です。

三谷鬼板本舗の「鬼板煎餅」は、明治後半にはすでに作られていたと伝わる、百年を超える西条の銘菓です。石鎚山に伝わる「鬼でも割れなかった煎餅」という民話に由来し、その名のとおり、しっかりとした硬さと歯応えがあります。炭窯から機械窯へと設備は変わっても、その日の生地の状態を見極め、手作業で焼き上げる技は変わりません。一枚ずつ焼きごてで印を付ける仕事にも、老舗の誇りが感じられます。バリッと噛めば、胡麻や生姜の香りが広がり、西条産の青海苔を使った鬼板からは燧灘の磯の香りがふわりと抜けていきます。硬い煎餅の中に、作り手の「伝統を守る硬い意志」が込められているようです。

新居浜の「別子飴」も、東予で育った者には忘れられない味です。別子飴本舗は明治元年創業。新居浜の発展を支えた別子銅山の歴史を後世に伝えたいとの思いから、「別子」の名を乳菓飴に冠しました。練乳を使ったやわらかな甘さと、オブラートに包まれた独特の口当たり、色とりどりのレトロな紙包みとそれぞれの違った味に、子どもの頃の楽しい記憶がよみがえります。別子飴は単なる土産菓子ではなく、約280年に及ぶ別子銅山の歴史と、新居浜の産業文化を今に伝える「食べられる地域遺産」ともいえます。変わらぬ味を守りながら、地域の歴史まで包み込んで次代へ届けようとする姿勢に、老舗の使命と心意気を感じます。

 

そして、東予の味を語るうえで、饂飩とおでんを忘れるわけにはいきません。

西条市大町の「かめや」は、饂飩、おでん、そして中華そばを楽しめる、子供の頃から親に連れて行ってもらうのを楽しみにしていた、昔ながらの庶民的なお店です。饂飩屋でありながら中華そばも人気が高く、亡き父は、鰹や鶏ガラを基調とした、まろやかであっさりした醤油味のスープに、鶏肉のチャーシュー、メンマ、もやし、ネギなどを添えた素朴な一杯がお気に入りでした。日本酒党の父は、饂飩もさることながら、夜はお酒とおでんをいただいた後に中華そばで締めるのも、「かめや」ならではの楽しみでした。

そして小松町の「優月」は、私の故郷時間軸では、比較的新しいお店ですが、極太の手切り麺で知られる釜揚げ饂飩の店です。不揃いに切られた太い麺は、見た目にも迫力があり、口に運ぶともっちりとした弾力と力強いコシを感じます。清々しい出汁が太麺によく絡み、噛むほどに小麦の味わいが広がります。饂飩ができあがるのを待ちながら、おでんを選ぶ時間も楽しいものです。

海苔、最中、饅頭、煎餅、飴、饂飩、おでん、中華そば、いずれも高価なご馳走ではありません。しかし、子どもの頃から食べてきた田舎の味には、どんな豪華な料理にも代え難い温かさがあります。それは、味覚だけでなく、家族との団らんや故郷の風景、店の佇まい、作り手の顔まで一緒によみがえらせてくれます。

一方で、気候変動による自然環境の変化です。そして、原材料費の高騰、職人の高齢化、後継者不足など、地域の食文化を取り巻く環境は厳しさを増しています。伝統の味は、黙っていても残るものではありません。作る人がいて、それを買い、食べ、語り継ぐ人がいて、初めて次の世代へ受け渡されます。

故郷の味を守ることは、地域の自然、歴史、暮らし、そして大切な思い出を守ることでもあります。東予の里山川海と大地がこれからも豊かであり、こうした味が、若い世代へ受け継がれていくことを心から願います。

 


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たぬきまんじゅう

三谷鬼板本舗 | 愛媛県観光物産協会

別子飴本舗 – 愛媛県新居浜市の別子飴本舗HPです。

うどん かめや – 伊予西条/うどん | 食べログ

優月 (【旧店名】うどん屋) – 伊予小松/うどん | 食べログ

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